ダメ人間にもなれない

PCの画面をクリックするしかできない男の日記

グリーンブックを観た ネタバレ注意

 先日Netflixにてグリーンブックを観た。かつて映画館で宣伝ポスターが貼ってあってちょっと興味があるなとは思っていたけれども、ずっと観ず仕舞いであった。

 

 

あらすじ

1962年のアメリカ、ニューヨーク。イタリア系アメリカ人のトニー・ヴァレロンガ(通称トニー・リップ)はナイトクラブで用心棒を務める粗暴で口達者な男。ある日ナイトクラブが改装の為3か月間の休業となってしまい、その間が無収入となってしまうので求職活動をすることとなる。

そんな中舞い込んできたのが運転手の仕事だ。依頼相手はドン・シャーリーという黒人のピアニストであった。依頼内容は当時黒人差別の感情が強かったアメリカ南部のコンサートツアーの運転手(及び身の回りのお世話)であった。黒人を良く思っていなかったトニーは最初は断るものの、トニーのトラブル解決能力の高さを知っていたドンはその後も熱心に彼を誘い、晴れて運転手を務めることが決まる。

性格も生まれた境遇も違う男達の8週間の旅が幕を明けようとしていた。

 

戦闘力が高く、家族や周囲に頼られる用心棒

主人公であるトニーはナイトクラブで用心棒を務めており、店内で暴れたりトラブルを起こしたりする客を「制圧」する役目にある。物語の序盤で暴れる客を外につまみ出し、それでもなお襲い掛かってくるのを返り討ちにするシーンがある。とにかくトニーのキレのある動きと浴びせる重いパンチが伝わってきて、その強さをまじまじと感じさせる。

こんな粗暴な面が目立つトニーではあるが、非常に家族を大切にしており、家族もまたトニーを愛している。また、知り合いのマフィアからも仕事を紹介されるなど、色々な方面で信頼されていることが伺える(この時は仕事の内容がアレなので流石に断ったが)。

 

色濃く残っていた黒人差別

1960年代のアメリカ南部では黒人差別を禁止する法律がなかった。むしろ差別を容認する法律まであったくらいだ。トニーも物語序盤では、自宅に来た黒人の業者が利用したコップをゴミ箱に捨てたりするくらいに黒人を嫌っていたのだ。道中の序盤では黒人を軽視した発言も目立っていたし。

そんなトニー以上に顕著だったのはツアー先での数々の対応だ。黒人という理由で用意されるはずだったピアノが違うものだったり(この時はトニーの武力で事なきを得たが)、トイレも外の粗末なところを使わされたり、食事も楽屋(というよりは単なる物置)で取るように指示されたりと、これでもかというくらいの人種差別のオンパレード。

挙句の果てには「黒人の夜間の外出禁止令違反」として逮捕されたりもするくらいだ。

自由の国アメリカには、日本人からしてみれば想像もできないくらいの人種差別が存在していたのだ。

 

感想

最初はイージーライダーみたいなロードムービーかなと思って観ていたけれども、2人の男の心境の変化が描かれるヒューマンドラマであった。

トニーは口も悪くて行動もガサツなのに対して、ドンは生真面目で超がつくほどの紳士的。そんな彼らが馬が合うはずもなく、言葉を交わしても基本的にかみ合わないし、言い合いになったりすることもしばしば。

そんな2人だったが、ドンの天才的な生演奏を聴いたトニーは徐々にドンに惹かれていく。中でもケンタッキー・フライドチキンをドンに勧めるシーンは必見だ。初めて見る食べ物で戸惑うけれども、食べてみたら素晴らしかったというところだが、あれ以降トニーとドンの関係が良くなっていたと思う(その後にトニーがドリンクの容器をポイ捨てして、それを拾わせるシーンはなかなかにシュールだ)。

その後はゆく先々で差別や危機的状況に遭うドンを助ける為にトニーは大車輪の活躍をすることに。バーで袋叩きにされたドンを助ける為にハッタリをかましたり、同性愛の疑いでドンが逮捕された際には得意の世渡り術で警察を買収したり、ドンを侮辱した警官を愛ある拳でぶん殴ったりと(もしもトニーが運転手を務めていなかったらドンは命を落としていただろう)。

ドンも助けられているだけではない。トニーと共に留置場に入れられた際には自身の人脈を活かして司法長官に頼んで釈放してもらったり、トニーが妻に手紙を書く際には助言を与えるなどする。教養がないトニーの文章を芸術品に仕上げるシーンは微笑ましい。そして、旅の最終盤でトニーが運転に疲れてモーテルで休もうと言う際に、「あと少しだから頑張れ」と励ますけれども、その後にトニーを後部座席で眠らせ、ドンが運転するという逆転現象にもホッコリさせられた。ビジネス上の関係から完全な友人に変わったことを決定させるシーンであった。

 

最後に、人種差別問題という重い背景がありつつも、所々にユーモアがあり、人間の心境の変化が描かれる暖かい映画であったと思う。トニーもドンも性格の違いはあれども確固たる信念を持った男だし、根底に優しさがある。

あと、ある種のグルメ映画ではないかと思わされるくらいにトニーが食べて食べまくる(実際にトニー役のヴィゴ・モーテンセンは役作りの為に14キロ増量した)。ホットドッグの早食い、モーテルでの巨大ピザ、そしてある意味キーワードでもあるフライドチキンなどなど。特にフライドチキンを頬張るシーンは視聴者の食欲をそそるものがあり、実際にフライドチキンを食べながら観た、食べたくなった人は少なくないのではなかろうか?

 ただ個人的に気になるのが、トニーが道中の店で売り物の緑色の石を拾って(正確には盗んで)、それを返却するシーンがあったけれども、実際には返却したフリをしてこっそり盗んでいた点だ。それさえなければ素晴らしかったのに何だかなあというしこりが残った。