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生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相を読んだ

以前からレビューを書くと告知していたけれども、遅ればせながら書こうと思う。

それが渡邊博史氏の生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相である。

 

note版の最終意見陳述書についても一昨年書いているので、そちらも見て頂ければ幸いだ。

 

 

teinousennin.hatenablog.com

 

 

本の簡単な概要

 2012年から2013年にかけて人気漫画「黒子のバスケ」の作者や関係者を脅迫し続けて逮捕された渡邊博史氏(現在は刑期を満了しているので氏づけで呼ぶ)の獄中手記。犯行の経緯や手口、そして彼自身の生い立ちや逮捕後の思考などがこと細かに書き記されている。

 

犯行前の状況

渡邊氏は犯行前はアルバイト等の非正規の仕事を転々とする生活を送っていた。それは彼自身に正社員が務まる能力があるとは思えなかったから。

そして小学生時代から受けたいじめや虐待によって抱き続けた自殺念慮の増大、デイトレの失敗、当時渡邊氏が注目し、自身の人生の傾きとは反比例する形で人気が出始めた漫画「黒子のバスケ」への嫉妬が積み重なって爆発して、犯行を決意する。

 

犯行計画と実行へ

黒子のバスケの作者の母校である上智大学への劇物放置事件、大阪に移住してからの黒子のバスケ関係者への脅迫事件の数々、毒物入りウェハス放置事件が逮捕されるまで詳細に記されている。

こんなに犯行の記録を事細かに覚えていられるのか?と疑問を抱いたくらいに、何月何日の何時に自宅を出たとかが明確に記されている。もしかすると記憶が曖昧になっている可能性もあると思うが。

次に、犯行に及ぶ際に変装を繰り返したり、ネットカフェを利用して犯行声明を出したり、複数犯を装って警察を巧みに攪乱したりするなど渡邊氏の地頭の良さが垣間見られる。

また、渡邊氏は働きたくない性分であったけど、自身の集大成となる犯行を成功させる為に派遣の仕事を積極的に受けたりするなど、行動力や根性があることも伺える。

 

逮捕後に向き合った生い立ち

2013年12月に渡邊氏は逮捕されて拘置所に収監された際に、差し入れられた著書を読み漁って冒頭意見陳述を作成し、自身の生い立ちにも向き合った。

渡邊氏は小学生時代からいじめを受け続け、しかも本来ならばサポートなりケアをすべきだった教師や両親からも理解を得られず、それどころか虐待や体罰を受ける有様であった。

特に両親からは漫画等の趣味を固く禁じられ、それを欲すると暴力を受けていたり、運動会で上位の成績を収めても全く褒めてもらえず、ビリになったらひたすら怒られて罵られるといった心理的虐待を受け続けて、「自分は虐待やいじめを受けてもしょうがない人間なんだ」という歪んだ認識が植えつけられる。

そういった自己肯定感が完全に破壊された状態なので、仕事先で仕事が評価された時でも素直に喜べなかったり、継続して努力することが敵わなくなっていく。

 

感想

一昨年のnote版のいわば完全版となった本書であるが、第一に印象に残ったのが渡邊氏の両親のしつけが吐き気を催すほど尋常でなかった点だ。

もしかすると両親側にも彼らなりの愛があったのかもしれないが、あまりにも一方的で渡邊氏のことを考慮していなかった。両親側もネグレクトを受けていたりして認知が歪んでいたというのもあるかもしれないが、それを子供にも連鎖していいという理由にはならない。

 こういった歪んだ教育を受けるのみならず、学校やその他の社会においても渡邊氏を精神的に支える存在がいなかったのが悲劇であった。渡邊氏ほど極端な例ではないにしろ、これに似た経験を得て自己肯定感を失った人は多いのではなかろうか。

そんな渡邊氏であるが、個人的に唯一幸運だったと思うのが、両親を殺害しようとしたタイミングで憎き父親が病死したことだ。もしも彼がどちらかを殺害していたら本当に人生が終わってしまっていただろうし、そんな下らない存在の為に人生をポシャらせるのは間違っている。

 

第二に、渡邊氏自身の頭の良さだろう。正直言って本書に出てくる言葉が難解なものが多くて理解しがたかったけど、犯行の計画性、分析力等の高さが溢れており、ちゃんとしたサポートを受けていれば必ず成功を収めていた人物であろう。実際にひろゆき氏を始めとして多くの人が彼の頭の良さを評価している。

 

最後に、本書は決して黒バス事件のような犯罪を称賛するものではない。

むしろ自己肯定感が持てない、努力ができない、などといった生き辛さを抱えた人達に対して贈られた「考えるヒント」であり、「メッセージ」なのだと感じている。

本書でも前途ある少年たちに対して「萎縮するな!」という言葉を発していることからも渡邊氏の優しさが伝わってくる。

渡邊氏は現在は刑期を終えて出所していると思われるが、改めて思うのが次の人生は彼らしくのびのびと生きていてほしいということだ。